対談03
第3回 田渕久美子氏
生息数激減、「ロマン重視の珍獣」としての生き方
| 安藤 | それはそれとして、いま田渕さんとお話していて、以前にふと考えたことを思い出したのね。これは最初に会ってしばらくして、患者とドクターの関係から友人同士になってからわかったことなんですけど、一種のミッションといいますか、自分の使命に対する強い思いというようなものが彼女にはあるんですよ。現実よりも、つい夢を重視してしまうというようなことですね。 だけど世の中で安定している人というのは、例えばぼくの友人のある社長さんが「ロマンとソロバン」という表現をしていますが、これは非常にうまい表現です。確かにだいたいそれで説明がつきますよね、安定的な経営の要諦については。 |
|---|---|
| 田渕 | なるほど。 |
| 安藤 | 実際、ぼくの友人で成功している人のほとんどが、「ソロバン6割、ロマン4割」という感じなんです。あるいは「ロマン7割、ソロバン3割」ぐらい。 ぼく自身、もともとソロバン10割の人とは絶対に友達にならないですからね。ものすごく親しくなる人というのはみんなロマンを持っている。でもそういう人はみんな、ロマンが4割ないし3割ぐらいで、向こうはその部分においてぼくと付き合ってくれている。 逆に6割7割の部分では、ソロバンの関係の人たちと付き合っている。そういうあり方というのはとても大人だと思うし、社会的にも非常に安定している。バランスがいい。 だけど、ぼくはロマン9割の人間なんですね。9割というのは、ほとんどロマンの塊で、ソロバンがない(笑)。だからそういう大人のバランス感覚はないというか、欠けている。田渕さんもそうなのね。ロマン9割の人なんです。 |
| 田渕 | (笑)。 |
| 安藤 | いや、ぼくがロマン9割なら、田渕さんはロマン9割2分とか9割3分かもしれない(笑)。だからもうちょっと、ソロバンのことも考えたほうがいいんじゃないかと、田渕さんを見ていると思うこともありますね。 とにかく自分の身を捨てるようにして、体当たりで仕事している。例えば『篤姫』で有名になったセリフ、「女の道は一本道」は彼女そのものなんですよ。篤姫の「一本道」には世間もしびれたと思うけど、ぼくもあの言葉にはしびれた。でもそれは彼女そのものなんですよね。そこがぼくといちばん近い資質なのかなと、いいことも悪いことも含めて、そう思いますね。ぼく自身、自分のミッションとして「患者さんが自分を好きになってくれるお手伝いをする」ということを常に意識していますから、身を捨ててまで仕事に打ち込むという気持ちは非常にわかる。 |
| 田渕 | 患者さんが自分を好きになるお手伝いをする――というのは、よくわかります。それは安藤歯科クリニックに来ることによって、患者さんに幸福を感じてもらえるようになりたいということですよね。実は私もそうなんです。ドラマを見て感動でき、喜びを感じている、そんな「自分」を喜んでもらえるようなドラマを作りたいんです。私のドラマを見てもらうことで、視聴者のみなさんがそれに感動している自分を発見したり、生きることの喜びを感じてくれたら素晴らしいなと思って、ドラマ作りをしているんです。 面白いドラマを作ってやろうとか、感動するドラマを作ってやろうというような押しつけがましい気持ちは、私の中にはないんです。見てくださる方が自然に喜びを感じてくだされば、それでいいんです。そういう意味ではすごく近いですよね。 |
| 安藤 | 近いですねぇ(笑)。いま田渕さんは、感動している自分を発見してもらえるようなドラマを......と言ったけど、現代人のいちばんの欠点は、日常的に感動していないことだと思うんですよ。昔に比べて感動する回数が極端に少ない。 |
| 田渕 | ええ。 |
| 安藤 | だから能面のような顔をして、心の中に何枚もシェルターのような殻をかぶってしまっている人が多い。そんな状態だと、やっぱり自分も好きになれないだろうし、当然、他人のことも好きになれないでしょう。 ぼくはだから、「感動こそ我が人生」と本なんかにも書いているんです。あなたのドラマも、あなたは感動させようとは思っていなくても、見る人は自然に感動する。感動することで自分を包む殻が破れたり、垢が落ちたりする。それはある意味で「心の浄化」ですよね。自分を好きになる作業でもある。 だけど田渕さん、とにかく人のことを心配したり応援したりするよりも、もっと自分を好きになれ、自分をもっと大事にしろと言いたい。この人は自分がぼろぼろになりながらも他人を応援するからね、見ていると......。 |
| 田渕 | 安藤先生にいわれる筋合いはない(笑)。その言葉はそのまま、安藤先生ご自身に向けた言葉としてお返しします。 |
| 安藤 | やっぱり、そうかな(笑)。ま、それはそれとして、ソロバン6割7割の人って、人からの応援がなくても自力でやれるから、羨ましいよね。 |
| 田渕 | 羨ましいですね。先日もある取材のときに女性記者から言われたんです。これまでいろいろな作家の取材をしてきたけど、あなたほど業の深いモノ書きはいない、まさに現代の珍獣だと(笑)。もうちょっと程よく、しっかりしないと生きていけませんよ、この世では、なんて言われてしまって。 |
| 安藤 | だから、さらけだしすぎなんですよ、田渕さんは(笑)。 |
| 田渕 | 珍獣だし、業が深いから、一生ものを書いていくしかないでしょう。こんな人、見たことないと。なんか、ちょっと悲しかったですけど(笑)。 |
| 安藤 | 別に悲しむことはないでしょう。それが好きでやっているんだから。 |
| 田渕 | そうですよね。そういう意味では安藤先生も相当な珍獣ですね。歯科のことばかり考えながら365日働いても飽きないという人ですから。お互い、珍獣同士で頑張りましょう(笑)。 |













